〜 To Other World 〜
subtitle:現実のファンタジーへ
VOLF  FACTORY様への贈り小説

ある日の夜、僕はベッドで本を読んでいた。
僕が読んでいた本はとあるファンタジー小説だ。

「こことは違う世界かぁ・・・本当にあるのかな・・・」

本当にあるとしたら行ってみたい。
僕は最近そんなことばかり考えていた。
今いる世界はあまり好きじゃなかったのだ。
毎日学校に行かなきゃならないし、お母さんに無理やり塾に行かせられていた。

「どんな世界だろう・・・やっぱり魔法とか使えるのかな・・・」

「あなたは無理だと思います。人間ですし」

突然誰かの声が聞こえた。

「誰!?」

上体を起こして部屋を見回してみる、が、誰も居ない。

「気のせいかな・・・」

僕は再び本を読み始めた。
でも、何か気配を感じた。

「・・・」

僕は怖くなり本を読むのをやめ、枕もとの電気を消して寝ようとした。

「あら、眠ってしまうのですか?」

「!!?」

僕は驚いてベッドから落ちてしまった。
誰かが真横に居たのだ。

「だ、誰!?」

「私は知的生物ですので、あなたを襲う危険性はありません。 落ち着いてください」

とても冷静な口調。
僕はそう言い聞かせられると、思わず黙り込んでしまった。

「私の姿を確認できた方が落ち着くでしょう。 明かりをつけてください」

「あ、うん」

僕は言われるがままに部屋の明かりをつけた。

「・・・夢・・かな・・?」

明かりをつけて姿を確認できたが・・・
僕はさっきまでファンタジー小説を読んでいたので夢だと思った。
猫のような白くてふわふわの生き物が僕のベッドの上にちょこんと座っているのだ。
しかしやはり猫とは違う。
背丈は僕と同じくらいで、座り方も猫より人に近い。
猫人というところだろうか。目は緑色というか水色というか・・・エメラルドグリーン。
何か不思議な模様のマントを羽織っていて、神秘的な感じ。
しかもその生き物がとても綺麗な声で日本語をしゃべるのだ。

「夢ではありませんが、別にそう思っても構いません。まず何故私が何者かと言う事を知りたいと思いますから、そこから話をしていきますね」

あまりに冷静な話し方で、僕はどんな反応をしたらいいか分からない。
しかしそんなことは気にせず、その生き物は話し始めた。

「私の名前はシャス・ゼラル・ラーグ 長いので『シャス』と呼んでください。私はこことは違うとある世界の住人で、いろんな世界を旅する事を夢見てきました。一人で旅をするより数名でパーティを組んで旅した方が何かと楽しいと思い、仲間を探しているのですが、私の世界では見つからず・・・」

シャスはそのままうつむいてしまった。

「色々と大変なんだね・・・」

僕がそう言おうとした瞬間、

*ぐぅ〜・・・*

と、シャスのお腹がなった。

「すみません。昨日から何も食べてなくて・・・」

なんだか拍子抜け・・・

「何か食べる?」

「いえ、御気になさら・・・」

*ぐぅ〜・・きゅるる・・・*

さっきより大きくお腹がなった。
かなりお腹が空いているようだ。

「や、やっぱり何か食べ物ください・・・」

シャスは恥ずかしそうに言った。
結構可愛いかも。

「ちょっと待ってて、何か持ってくるから」

僕はそう言って急いで台所に向かった。
そして冷蔵庫の中を覗き、一通り見回して、良さそうなものを探す。

「何食べるんだろう・・・」

どうもシャスの食べそうなものが思いつかない。

「猫に似てるし・・・ホットミルクとか飲むかな」

僕は牛乳パックを取り出し、コップに牛乳を注ぎ電子レンジに入れて「ミルク」のボタンを押した。
こういうとき電子レンジって結構便利。

「これだけじゃ足りないよね・・・」

僕は再び冷蔵庫の中を覗き込んだ。

「マヨネーズ、ブロッコリー・・・なんか違うなぁ・・・
 メープルシロップ、ヨーグルト・・・これじゃあ食後のデザートだよね・・・
 もずく、イトミミズ(おたまじゃくしのエサ)・・・こんなもの並べないでよ・・・」

冷蔵庫の中は変なものばかり。
僕は冷蔵庫を閉じてテーブルの方へ目をやると、上にはお母さんが買ってきたパンが袋に入ったまま置いてあった。

「・・・かなりお腹空いてるみたいだし・・・全部持って行っちゃうか・・・」

僕は暖まったミルクとパンの入った袋を部屋まで持っていった。
シャスは相変わらずベッドの上にちょこんと座っている。

「お待たせ、これでいいかな」

「どうも、頂きますね」

シャスは早速パンを取って食べ始めた。

パク、モグモグ・・・

「ふぇ、わはひわまふぃをひははあんあかふぁをふぁふぁおうふぉ」

「食べてからでいいよ(汗)」

「ふぁい」

モグモグ・・・
ムシャムシャ・・・

「よく食べるね」

「ゴクゴク・・・ふぅ、ご馳走様です」

シャスは僕が持ってきたパンを本当に全部食べてしまった。
僕は明日の朝きっと母に怒られるだろう。
そんなことはさておき、シャスはさっきの続きを話し始めた。

「で、私は仕方なく他の世界を旅をしながら仲間を探すことにしました。それで最初に来たのがこの世界です」

「じゃあ何で僕の部屋に現れたの?」

「あなたはどんな人生を歩みたいですか?」

逆に質問されてしまった。

「どんな人生って・・・僕が全く知らない世界でいろんな発見をしながらのんびりと放浪して過したい・・・」

僕はそう答えた。
その瞬間、シャスが僕に抱きついてきた。

ぎゅぅ

「わ、ちょ、何するの!」

「あ、すみません。 同じ考えの人が居ると思うとついうれしくなってしまって」

急いで腕を解くシャス。
本当に可愛い・・・

「それで何で僕の部屋に現れたの?」

「あなたがいかにもそんな感じに見えたからです」

「どんな感じ?」

「いかにも全く知らない世界でいろんな発見をしながらのんびりと放浪して過したい・・という感じです。それであなたを旅に誘いに来ました」

自分でもはたから見たらそう見えることは分かっていたけど、僕のような人は何も一人だけじゃないと思う。
だけど、僕がシャスに選ばれたのなら、それは凄くうれしいこと、僕はそう思った。

「一緒に旅に連れて行ってくれるの? 僕たちとは違う世界に連れて行ってくれるの?」

「もちろん、貴方が行きたいと願うのなら」

僕はその言葉を聞いて少し考えた。

「・・・もし行きたいと願ったとしたら、この世界での生活はどうなるの?」

お母さんのこと、学校のこと、家のこと、塾のこと・・・

この世界は好きじゃないけど、全く手放すというのもとても大きい・・・。

「どうなるのと言うと・・・?あ、私とは違ってご自身の世界が気がかりなのですね」

「気がかりというか、心残りというか・・・」

「全ての生きるものは自分の生まれた世界を離れると、そこで自分が存在する意義とともに存在したという時間も抹消されます」

何か物凄い話になってきた。

「じゃあもし抹消された後で、この世界に戻ってきたらどうなるの?」

「抹消されたピースの穴は残りません。あなたが戻ってきても、あなたはこの世界では何処にも当てはまらないピースとなります」

シャスは綺麗な声で結構怖い事を坦々と述べて行く。

「・・・」

「どうかしましたか?」

「シャスは自分の世界を離れるとき、哀しくなかったの?」

「それは哀しいですよ」

シャスはふわふわな耳の後ろをかきながら、にっこり微笑んで言った。

「でも、それだけの代償を払う価値はあると思いましたので。もとの私は無かったことになっても、そこから新しい私が始まりました。私はこの世界に初めて来たとき、物凄く感動しました。言葉では説明出来ないくらい・・・」

僕はシャスが目に薄く涙を浮かべてるように見えた。
その、僕には想像もつかないような哀しみのせいか感動のせいか、全く分からない・・・。

「一緒に、旅しませんか?もちろん、無理にとは言いません」

「・・・・・・・・」

僕は妙な切迫感を感じていた。
僕はこの世界から居なくなる・・・両親とも二度と会えないし、会えたとしても、もう僕の両親じゃない。
住み慣れた家にも・・・住み慣れた感覚も・・・小説も・・・全てを無くす・・・自分の存在も・・・

「そんなこと・・・」

「え・・・?」

僕の目は徐々に熱くなって行き、前が分からなくなってきた。

「泣いているのですか?」

「・・・行きたい・・・でも無くなっちゃう・・・」

自分の中で、行きたいという気持ちと、今の生活を失いたくないという気持ちがぶつかり、分けが分からなくなってくる。

「・・・どうしたら・・いいの・・?」

「え、その・・・どうしたらいいと聞かれても・・・」

シャスはどうしたらいいか分からないみたいで、泣いている僕を前にしてあたふたしている。
僕もどうしたらいいか分からず、ただ泣いている。
そうしていると、いきなり何かふわっとした暖かい感覚が僕にかぶさった。

「落ち着いてください・・・何も心配は無いですから・・・」

シャスが僕の耳元でささやいた。
その時ようやく状況を把握できた。
シャスは僕を落ち着かせようと僕を抱きしめているのだ。
体の大きさは僕とほとんど変わらない。

「とある人が・・・私が何もわからなくなると、私を安心させようと私をぎゅっと抱きしめました。結構効果があるようですね」

シャスは抱きついたまま僕の耳元で話し続けた。

「この世界を離れるということは、あなたの全てがなくなるということとほとんど同じでしょう。でも、その瞬間から、あなたの新しい世界が広がっていきます。ここには敵わないかもしれませんが、もとの世界を捨てるだけの価値はあると、私は思います・・・落ち着きましたか?」

「うん・・・」

僕が落ち着いた事を確認すると、シャスは腕を解いた。

「あと30分ほどで、この部屋のちょうど真ん中に、亀裂が出来ます。 その亀裂を通ったら、私が元いた世界に行くことが出来ます。 どうしますか?」

「30分・・・もっと時間無いの?」

「次はありません。私の魔力はこの亀裂を1度作るので精一杯なので」

時間が少ない・・・

「じゃあ亀裂はもう少し後に出来ないの?」

「この亀裂は、12個の一定の時間枠から一点にエネルギーを送ることで開けます。そのエネルギーのビームのようなものは必ず1時間ごとにその一点に送らなければならいのです。 最後のビームを送る時間まで許容誤差を入れても後、29分です」

「そうなんだ・・・ちょっと考えさせて」

と、部屋の戸が開けっ放しだったのか、家で飼っているミイ(猫)が僕の部屋に入ってきた。
みゃぁ と、一声鳴く。

「変わった生き物ですね、私に似てる・・・」

「猫って言うんだよ、家で飼ってるんだ」

僕はミイを抱き上げ、軽く抱いた。
そのまま僕はしばらく沈黙した。

可愛い・・・もし他の世界に行くとしたら、ミイともお別れ・・・
それだけの価値はきっとある、僕の存在がなくなることより、大きな価値がある。
僕は急にそう確信した。

「あと1分ほどですが・・・どうしますか?」

「僕・・・行くよ」

僕は決意を固めた。

「本当ですか!?」

「うん、僕は・・・もう戻らない、決めたよ」

「本当に良いんですね!?」

シャスはうれしそう。

「何度も聞かないで、気持ちが変わっちゃうから」

「あ、すみません。丁度時間ですね」

シャスはそういうと、何処からか杖を出した。

「少し下がってください」

杖の先がぼーっと光り始めた。
シャスはそのまま何の呪文を唱えることもなく、目を瞑って念じるわけでもなく、光を見つめた。
そして、その光が杖の先から一気に光が部屋の中心に向かって飛び出し、はじけて輝いた。

パーン!!

僕は口をあけたまま唖然としていた。
ふと、シャスの方向を見ると、僕以上に驚いているようだ。
耳が後ろに向いて毛が逆立ち、尻尾がぼわぼわになっている。

「これは何度やっても驚きますね」

シャスは恥ずかしそうにそう言った。
部屋の中心には、不思議な・・・亀裂だろうか。青白い光の塊が発光していた。

「本当に良いのですか?」

「うん、僕は行くよ」

もう気持ちは変わらない。

「最後にミイに会えてよかった・・・。僕のことは忘れちゃうんだろうけど、またね、ミイ」

僕は涙をふきながら、ミイに最後の挨拶を伝えた。
ミイはみゃぁみゃぁ鳴きながら、僕を見送ってくれている。

「さあ、行きましょう」

シャスは僕にふわふわの毛で包まれた腕を伸ばした。

「うん」

僕はシャスの腕をつかんだ。
そして、一緒にその青白い光に飛び込んだ。




頭がボーっとして、何か体がふわふわしているような感覚・・・

「ここは・・?」
なんていうか・・・水色の空間だ。

「手を離さないでくださいね。互いの世界の中間点です。このまま流れて行くと、私が元いた世界に出ることが出来ます。そこに、私たちと同じように、いろんな世界を旅している人が住んでいますので、そこであなたにいろんな事を教える予定です」

「ふ〜ん・・・」

「そういえばあなたの名前を聞いて無かったですね」

「言われてみればそうだね・・・僕の名前は霄 宙(おおぞら はるか)」

「なんか、壮大な名前ですね」

昔からよく言われていることだ。
シャスの名前も僕の世界ではあまり聞かない感じだけど、僕の名前はどんな感じに聞こえるのだろうか。

「ねえ、一つ聞いていい?」

「何ですか?」

「なんで丁寧語なの?」

さっきからずっと気になっていた。

「丁寧な言い方という意味ですね。あなたの世界の言葉を覚えたのは本当に最近なので。所々間違っているかもしれません。そういえば「僕」というのはどんな場合に使う一人称なんですか?」

「えっとね・・・男の一人称なんだよ。「私」というのもあるけど、たいていの男の人は「俺」か「僕」だと思う」

「じゃあ「俺」を使ってみますね。俺の名前はシャス・ゼラル・ラーグです。どうですか?」

「なんかイメージが・・・って・・あれ・・?」

「どうかしましたか?」

「シャスって男だったの・・・?」

「そうですけど・・・。あ、そういうことですか。よく間違えられるのですよ、最初に言うべきでしたね、すみません」

ということは、僕は男に対してとある感情をいだき、更に抱きつかれてなだめられたのか・・・
まあいいや、可愛いし。

「「俺」は合いませんか・・・ 僕の名前はシャス・ゼラル・ラーグです。 どうですか?」

「うん、「俺」よりはいいと思う」

「俺」だと、なんかカッコよくなっちゃうし・・・・。

「出口が見えてきました。これから私たちの・・・訂正します。これから僕たちの旅が始まるのですね」

「全てを捨ててきたんだから、後悔のない旅を約束してね」

「約束します」

僕たちは、流れに乗って水色の空間を抜け出す。
これからどんな世界を旅し、どんなことがあるのか全く分からない。
でも、水色の空間を抜けると、シャスの言うとおり、凄い感動が巻き起こった。
全身に鳥肌が立つような感じだ。
僕はこの先どんな道をたどるのだろうか・・・
分かっているのは、もう元の世界には戻れないということ。これから真っ白になってしまったページに、自分が後悔ないような文字を刻んで行くということ・・・。
今から他の世界で、僕の旅が、シャスと歩む白紙の道が、始まる・・・。


誰か続きを書くとしたら、続く
誰も書かないとしたら、END



■あとがき■
昔、私は他の世界にあこがれていました。
小説はあまり読みませんでしたけど、塾に行かされ、小学校も嫌いで、友達もほとんどいなくて、特に大きな楽しみもなく、生きていました。
しかし、自分ならこの少年みたいに人生を捨てるという決断は出来なかったでしょう。
この小説は贈りつけた相手が続きを創造していけるような感じで書きました。
現在までの人物設定を以下に書いておきます。

登場人物
  名前:霄  宙(おおぞら  はるか)
  性別:♂
  年齢:中学2年生未満で、今のところ未定
  一人称:僕

  名前:シャス・ゼラル・ラーグ
  性別:♂
  年齢:身長は宙とほぼ同じだが、未定
  一人称:私・僕