〜泳ぎ方〜
見守る者・見守られる者
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ある日可愛らしい狐が二本の尻尾を器用に回しながら空を散歩していた。
そして湖の近くを通って何気なく下を見てみると・・・。

「あ、大変だ! 誰かおぼれてる! 助けなきゃ!」

二本の尻尾を持つ狐は急いで湖の水面に飛び込んだ。
その可愛く不思議に動く二本の尻尾を巧みに使って水面をかきながら潜っていく。
おぼれている黒き少年を抱きかかえて必死に陸に上がった。

「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫?」

「うん・・・ひっく・・」

黒きふさふさした耳の長い少年は軽くうなずいてすぐ泣き出してしまった。

「どうしたの?」

「僕ね・・泳ぐ練習してたんだよね・・・」

「君泳げないの?」

「うん・・・パッシュがね、僕が泳げないのバカにしてね、ひっく、悔しくてこうやって泳ぎの練習してたんだよね、そしたら溺れちゃって・・」

少年は泣きながらこまごまと切れた話し方でそういった。

「そうなんだ・・僕が泳ぎ方教えてあげるよ、このままだとなんか可哀相だし」

「え、本当?」

少年はようやく泣くのをやめ、ようやく少し微笑んだ。表情はとても可愛らしい。

「うん、僕犬掻きしか出来ないけどそれで良ければ。 でも僕狐だから狐かきって言うのかな・・?」

「犬掻きでもいいから教えて!」

「いいよ、君の場合猫っぽいから猫かきかな? 君なんて名前?」

「僕はクロノアだよ。君は?」

「僕はテイルス、よろしく」

テイルスは早速クロノアに猫かき(?)を教え始めた。

「くそ、せっかく俺が教えてやろうと思ったのに・・」

と、誰かが木の陰で二人に聞こえないように嫉妬深くボソッと言った。

「しかしクロノアあんなに俺が言った事気にしていたのか・・」

彼はパッシュ。 
さっきクロノアが話していた人物だ。

今日の午前、クロノアが水の遺跡の発掘に行きたいと言い出したのだが、
パッシュはクロノアが心配で

「はは、お前泳げないだろ、泳げないと水の遺跡の発掘調査なんかできるわけ無いだろう」
とバカにしたように言ってしまったのだ。

「ひど〜い! 僕もその気になれば泳げるよ!」

「そいつはどうかな」

ということでクロノアはパッシュに黙って泳ぎの練習をしていたのであった。
それでパッシュはクロノアがおぼれてしまうのを心配してこっそりついてきたのであった。

「じゃあまず基本からね。まず両手をばしゃばしゃして」

「こう?」

クロノアは水の中でおぼれているように手をばしゃばしゃと動かした。

「そうそう、それで体が沈まないから尻尾を回して進むんだよ」

「え、ちょっとまってよ。そんな器用なこと出来ないよ」

「あ、そうか。尻尾が二本あるのって僕だけだもんね」

そもそもクロノアの尻尾はさほど長くなく、テイルスみたいに大きくもない。

「えっと・・クロノアは耳が大きいから耳で泳げるんじゃない?」

「そうかなぁ・・とりあえずやってみる」

クロノアはテイルスが言うように両手をばしゃばしゃとさせながら耳で水をかいた。

「な、なんか可愛いことやってるな・・」

見守っていたパッシュが小さい声で言う。

バシャバシャ・・・
一向に進まない。

「はぁ・・はぁ・・全然前に進まないよ・・」

「そうみたいだね・・。まだ水をかく力が足りないんじゃないかな?」

そういわれていっそう激しく耳を動かした。

「あいつクロノアを疲れさせやがって。あれじゃあ進むはずないじゃないか」

パッシュがそうぼやく。
しかしテイルスは進むはず無いと気づいていなかった。

「イタタ・・耳つっちゃった」

あまりに耳に力を入れすぎて耳をつってしまったようだ。
クロノアは痛そうに涙をこぼしながらそのまま水に沈んでしまった。

「あ、クロノア!」

あわててクロノアを助けにテイルスも水の中にもぐった。

「大丈夫だろうな・・」
木陰で見ていたパッシュが心配そうにしている。


「はぁ・・・僕やっぱり泳げないんだ・・」

テイルスに助けられて丘に上がり水がしみこんでしっとりと重くなった毛を乾かしながら、
クロノアが哀しそうに言った。

「でも浮くようになっただけずいぶんと進歩したと思うよ。
ソニックなんか浮くことも出来ないんだ」

テイルスが慰めるようにクロノアにそういう。

「だれそれ?」

「僕の相棒みたいな人なんだ。すっごくかっこよくてすっごく強いんだよ」

テイルスが絶賛する。

「でもね、ソニック全く泳げないんだ。浮くことも出来ない。全然練習しいし。
泳ぎ方教えてあげようとすると嫌だって言うんだ。何であんなに嫌がるんだろう」

いや、それは単に恥ずかしいだけでは・・。

「かっこよさならパッシュも負けないよ。背が僕よりもずっと高いし耳がぴんと立っていて凄くかっこいいんだよ。」

それを聞いて思わず恥ずかしくなるパッシュ。
せっかくクロノアのもとへ行こうとしたのにクロノアがそんなことを言うから行くに行けなくなってしまった。

「ソニックのほうが絶対かっこいいよ! 全身の毛がつんつんと立って走るのとっても早いんだよ」

「絶対パッシュのほうがかっこいいよ!」

っと・・・変なことで言い争いになってしまった。
完全に出るタイミングを見失ったパッシュ。
困っている様子だ。

「ふぅ・・このままじゃずっと話終わらないよ」

「そうだね、今日はもう帰るよ。今日は本当にありがとう」

「お礼なんかいいよ。結局泳げなかったし」

「ううん、テイルスと友達になれたってだけでよかったよ」

クロノア・・またさらりと恥ずかしい台詞を・・。

「僕もクロノアと友達になれてよかったよ。今度ソニックとパッシュという人も含めて遊ぼうね」

「うん、じゃあね」

クロノアは新たな友達を作ってとてもいい気分で家路に着いた。

「とりあえず、何事も無かったな。」

一安心するパッシュ。





「・・・結局俺は何しに来たんだ・・?」

END



■あとがき■
なんかパッシュがおいしいキャラになっていますね。
ご注文は「ほんわかしたコメディー小説」でしたけど、
これは全然コメディーになってなかったりしますね(汗)